防衛庁情報局―所在地にあやかり市ヶ谷とあだ名される、存在しないはずの日本唯一の諜報機関。
この組織に関わる、6人の話。
「今できる最善のこと」
中途社員の身ながら今や国土交通省のコンクールで賞をとり、重責を負う建設会社社員。
千葉出張からの帰り、乗務員の他は小学生一人と男のみ。
そこへ「北」の元工作員が乗り込んでくる。市ヶ谷に在籍した過去を持つ男が弟の敵だと知り、復讐せんとやってきたのだった。
「これ、おっさんに燃える小説か」と気がつきました。
中年おじさんを主人公にするのが好きなのだろうか。
以下より、おじさんの贅肉の描写に愛着を感じるようになります、割と本気で。
====================
「畳算」
旧ソ連の間諜として生きた男が、ついぞ使われなかった切り札「スーツケース」の譲渡を市ヶ谷に申し出た。
切り札を持っているのは男の妻。一芸を極めた芸者、の過去に惹かれた局員の目の前に現れたのは、「スーツケース」を高額で売却しようとする強欲ばあさんだった。
泣きそうになりましたよ!
強欲の振りして一途で健気で義理堅い女と、いろんなものを裏切ったが故に独りで清算せざるを得なくなった男と、いろんなもの裏切ったが救われた男。
「スーツケース」を手にやがては同じ末路をたどろうとも、二人の男の心境は似て非なるものだろうなあ。
====================
「サクラ」
事務方で実戦は初めての中年男とガングロメイクながら特命を受けた特殊工作員の少女が一夜限りのパートナーとなった。
任務は「北」と通じている可能性のある局員の警護および監視。
ところが、作戦行動中、防衛のために少女の取った行動で対象が死亡してしまう。
身寄りのない子がちょい熱血オヤジに心動かされる・・・あれ、イージス?(笑)
よくある構図ですがガングロの特殊工作員というのがミスマッチでインパクト大でした。
====================
「媽媽」
母親の身でありながら市ヶ谷に所属する女。
巨大海賊組織への武器密輸調査中、重要な情報を知る組織の人間が縄張りに帰ってきた。
男を発見即確保、尋問を行っていた所に市ヶ谷から撤収の通達が下る。
しかし、不可解な撤収の影にCIAとの政治的な取引き、男の「母親は帰れ」という言葉が胸に刺さっていた女は男の元へ走る。
語り手の女性は一度、仕事を止めて復職したんだけどその理由がノイローゼ。
一人の女ではなく「お母さん」というその他大勢に変化していく違和感。
それを思うとぞっとするな・・・
====================
「断ち切る」
断ち切り師、と呼ばれるかつての凄腕スリ師も今では息子家族の家に身を寄せる萎びた爺になっていた。
ある日、自分を検挙し損ねた刑事にあるものを掏ってほしいと依頼される。
いまさら手を汚すつもりもなかったが、本当の依頼者に心奪われ、彼女のために一念発起する。
獲物は巨大海賊組織のトップを抹殺できる情報を流すための鍵となる「電子手帳」・・・
「媽媽」後編といいますか。
「媽媽」から引き続きの登場人物がかっこよかったです。
小説ならではのミスリードで楽しめました。
おじいちゃんを追い出して友達とゲームに興じる孫、に胸が痛くなりました。
そんな蔑ろにしたことないけどね・・・あんま孝行してないなあ、と恥じ入るばかり。
====================
「920を待ちながら」
退任間近の工作員は市ヶ谷上層部に根付く横領を暴こうとした同僚と、彼を射殺した伝説の狙撃手・920を忘れずに居た。
対象者不明の警護および監視の任務は、つい最近パートナーを組んだ男と再び遂行することとなった。己のみを信じる孤独な目に920を重ねつつ、無愛想で天邪鬼な態度に呆れていたところ、自分たち以外のチームが全滅していることがわかる。
その最中、任務の対象者が同僚が横領の事実を突きつけた幹部であり、正体不明の狙撃手が退任したはずの920の可能性が浮上する。
今作中、もっとも長かった話。
込み入った話の状況説明になると頭がこんがらがるよね・・・この人の文章。
なーんか、納得いかないというか、話はわかるし、語り手のしたいことも納得いくんだけど・・・釈然としない。
面白かったんだけどさ。
====================
全体的に面白くずんずん読んでしまいました。
福井先生の文体が苦手ではなくて、長編を読むのが苦手なのではという気がしてきましたが・・・
防衛庁情報局、亡国のイージスでは市ヶ谷の他にDAISなどとも呼ばれてましたが、そのシリーズの一端。
まあ、直接な関連は如月行のみ。
DAISシリーズは最初から読み直そうかなあ・・・。
で、その行ですが。
ネタバレしてたとはいえ、これ、あからさま過ぎるなあ!
亡国のイージス前、というかその後は確か退任してたはず・・・ですが、自分しか信じないが孤独になりきれないといった感のある言動が懐かしかったです。
やる事かっこいいよな・・・イージス後の絵といい、今回のヒナゲシといい。